400 ある裁判について 下肢長差

まとめ
 ①ある裁判の話 
 ②時には決まった測定方法でも体の異常を表現する事ができない時がある。

私がまだ勤務医の頃、裁判に出廷しました。
当事者ではなく、弁護人から依頼されて一般医が一般的意見を陳べる裁判でした。
交通事故で骨盤を骨折した患者さんが、
日常生活で障害があるのに生命保険会社が補償しないとの事です。
診察では確かに跛行があります。
診断医は左右の下肢長に差がないので日常生活に困難はないと判断しました。
レントゲンでは骨盤が曲がっており、かなりの事故の様でした。
就寝時にも腰の痛みがあり、歩く時も脚を引きずっていました。
そこで、私が研究で製作した足底圧分析装置ソフトを使って
その方の歩行パターンを調べました。
明らかに片側の足の接地時間が長く、足底圧も正常ではありません。
接触圧測定装置では骨折で飛び出ている骨盤片側の臀部の圧力が
収縮期血圧を大きく超え、体の向きを変え続けないと床ずれができる状態でした。
しかし跛行なのになぜ下肢長差が無いと診断書に書かれたのでしょうか。
気付けば答えは簡単でした。
診断医も間違ってはいなかったのです。下肢長の測定方法は決まっています。
骨盤の上前腸骨棘から足のくるぶし迄です。
その間に骨折部分は含まれないので両下肢長は同じになります。
上前腸骨棘(骨盤)と脊椎の間の骨折でずれていたのです。
その為、決められた下肢長測定方法では左右差が出ません。
そこで第5腰椎の棘突起(体の中心線)と左右のくるぶしで測ると4cm程の差がありました。
裁判ではその下肢長差を認めて補償が出ました。