380 治るけど治らない
①治療部位は治ったが、違う部位や隣の部位など治療したところと異なるところで病気が生じる。
②患者さんは手術を受けるのだから全て治ると思う。
③元々、『治る』が違う。医師と患者の考えが異なる。
先日「治る」「治らない」で「医者は治ったと言うけれど」って話に患者さんとなりました。
よく聞く話です。
真面目な医者ほどそうなる気がします。
医者にとって患者さんが治る事はとても嬉しいです。
ところがこの「治る」と言う言葉が患者さんと医師で異なる事が多いのです。
①治療部位は治ったが、違う所で病気が生じる。
例えば、腰部椎間板ヘルニアは6箇所でヘルニアを起こす可能性があります。
(多くは第4・5腰椎椎間板か第5腰椎仙骨椎間板です)
そして手術はヘルニアを起こした部分だけを手術するのが一般的です。
そして手術が成功したとします。
すると症状は消失して、患者さんも医師も納得して手術もうまくいったと大喜びです。
ところが、手術した部位の上下の椎間板には大きな負担が生じます。
重労働をしている人では特に大きな負担が生じるでしょう。
手術をしたところ以外に再び椎間板ヘルニアを起こす可能性が増えてくるのです。
椎間板ヘルニアを起こした部分を手術して治癒しても、
後日、別の部位でヘルニアを起こす事があるのです。
患者さんから見れば再発したのです。
その時、患者さんは「手術をしたのに症状が取れん、いっちょん治らん。手術せんとけば良かった」と
言います。
②患者さんは手術をすれば完全に治ると思う。
どなたも、首や腰の神経の手術なんてしたくありません。
ましてや、医師から神経の圧迫を取り除く手術の時には危険性の説明を受ければなおさらです。
手術を喜んでする人なんてはいません。
そのため、手術は出来ればしたくない。
するにしてもできるだけ先延ばしにしたい訳です。
ところが、椎間板ヘルニアでは難しい事に
手術を先延ばしする事で完全に症状が取れなくなる事があるのです。
神経が圧迫を受けて生じる腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症は、長期間圧迫を受ける事で
神経変性が生じます。
変性が生じた時には神経の働きは元に戻らない可能性が高いのです。
神経は強い組織です。
少々の圧迫でも、その圧迫が取り除かれれば機能が元に戻る事が多いのです。
ところが、その期間が長過ぎると神経が変性して元にも戻らなくなるのです。
どれ位で戻らなくなるのかをみなさんに言う事ができれば良いのですが、
残念ながら、はっきりした答えはわからないのです。
ただ、神経機能が落ちてきている時にはできるだけ早く手術をしたい訳です。
そして、もし、手術をするのが遅すぎると、
神経変性が生じた後に手術をすることとなり
手術しても症状は残存する事になります。
それでも手術をする価値はあります。
手術をする事でそれ以上の進行を予防できるのです。
その先にある悲惨な状態を知っている医師は言います。
「成功しました。これ以上悪くなる事はありません。良かったですね」と
ところが患者さんは、放置するとどんな状態になるか、詳しくは知りません。
ひどい状態になるって言われたって、そんな状態なんて知らないわけです。
そして思います。
「手術をしたのにいっちょん治らん。手術なんてせんほうが良かったやないと?」
③元々話が違う。
患者さんにとっては
「治る=痛みが取れる事、病気が治るかは別」
「治らない=痛みが取れない(病気が治るかより重要)」の方が多く、
医師にとっては
「治る=病気が治る」
「治らない=病気が治らないでも、痛みが取れる」
元々、ゴールが違います。
特に命に問題がない整形外科の場合に多く、
痛みを取る事が主なのか、
病気を治す事が主なのか。
それとも両方できるのか?
病気とうまく付き合えば、十分に生活ができる事も多いわけです。
治療を始める時や、治療中でも
医師の「治る」がどれなのかを確認して治療を受けましょう
(^o^)/BYE